Part9


スペシャル・FXコラム


リンカーン・リム氏 ………………. 外国為替証拠金(FXマージン)取引 『マーケットの展望』 (下)


選択のポイント
日本では、長年のゼロ金利政策とインターネットの普及により、FXマージン取引の取引量が増加するにしたがって、ここにきて取引をめぐる顧客と取引会社のトラブル急増が今般報道されています。また、顧客が預け入資金を清算できずに取引会社が倒産したケースもありました。これまで監督官庁がない自由なマーケットであるがゆえにトラブルは起きますが、海外でのFXマージン取引の歴史から明らかのように(FX Column Part8掲載)、規制を厳しくすればマーケットは消滅しかねません。ごく一部会社の不正取引の横行によって、健全な市場発展に向けて取り組みを行っている取引会社まで悪影響を受けることがあるとすれば、憂慮される事態です。
【FXマージン取引マーケットで、なぜ多くのトラブルが発生しているのか】
問題となっている点は:
① 顧客がお金を引き出せない
② 顧客がFXマージン取引のリスクや取引技法について詳細な説明を受けていない
③ 顧客がFXマージン取引自体についてよく理解していないまま取引に参加している
④ 取引会社の資本不足による信用リスク
⑤ 取引会社のディスクロージャー不足による顧客保護の欠如
営業担当者もFXマージン取引という金融商品取引の知識不足とトレーニング不足によって顧客に対する説明が不十分であることから起こっていると思われます。営業担当者自身が商品性について分からないと、顧客への説明ができるわけがないのです。
FXマージン取引と、株式や先物取引は本質的に違うものですが、同じものと考えている投資家が多いことも事実です。FXマージン取引という金融商品に関する理解度の欠如が起因とも思われます。
そこで、一般投資家がFXマージン取引を選ぶポイントは、どこにあるのかを考えます。そこから健全な市場の発展の道が開けてくるのではないでしょうか。まずは、下記の3点が大きなポイントとして注意することが大切と思われます:
(1) 外国為替取引において、スポット(直物)取引は取引通貨の受け渡しを伴う取引なのに対して、FXマージン取引は受け渡しがないデリバティブ商品(金融派生商品)のひとつです。スワップ(通貨間の金利差)をツールとしてロールオーバーすることで、受け渡しがなくなっている取引です。しかし、FXマージン取引は金利を追求する商品として作られた取引ではありません。つまり、金利をうたって顧客を集めるような金融商品ではないのです。外国為替相場の変動が伴う商品という本当のリスクを伝えずに、金利の高さを強調してFXマージン取引をすすめるやり方はまずいといえます。
(2) ポイント2は、マーケットの実勢レートと関係なく、取引会社自身の利益となるよう勝手にプライスメイクしたレートを顧客に提示する、こうした取引会社は問題があります。この金融商品はあくまでスポット市場の実勢が前提であり、スペキュレイティブなマーケットであることを忘れてはいけません。また取引会社が顧客から注文を受けて、きちんと金融機関へポジションのカバー(ヘッジ)をしていないところも良くない取引会社です。取引会社が自己でポジションを持っていると、為替相場の変動でそのポジションが損失を被った場合、会社の存続にかかわる問題となり、顧客の資産損失につながりかねません。
(3) ポイント3は、高配当をうたい文句に顧客からおカネを集めようとする取引会社の存在です。これは為替証拠金取引でもなんでもなく、ただ顧客の資金をまるで自社の資産のように扱い、他社に証拠金として預けて自主運用するものです。しかし、その運用で損失を被り、顧客は預入資金を清算できなくなるケースも生まれることもありえます。
役割高まるFXマージン取引と合理性
【FXマージン取引の合理性】
各種の金融派生商品が開発・提供されていますが、それらが作られたのはリスク分散の目的や税法上、経理上などの理由があったからです。外国為替取引は、インターバンク市場では国際貿易にとって不可欠な役割を担っています。FXマージン取引は、もともとスペキュレーションによる取引で、インターバンク市場との違いがあるとはいえ、合理的な存在理由があると考えます:
(A) FXマージン取引による資産運用のリスク分散の役割を果たします。金融資産のリスク分散をすることで運用管理リスクが減り、コストの削減にもつながります。
(B) プライジングのメカニズムによるフェアなマーケット形成が期待できます。
(C) ヘッジングの役割です。個人では銀行で為替ヘッジができませんが、FXマージン取引であれば為替ヘッジができ、経済的に為替リスクを補足する役割を担います。
(D) 金融庁が規制に乗り出すことで、健全なFXマージン取引業界育成という新しい産業の創設と新規雇用の場を提供することにつながると期待されます。
【FXマージン取引の今後の展望】
FXマージン取引マーケットの将来は、金融庁による改正金融先物取引法の施行(平成17年7月1日)により、取引会社は自己資本規制比率による登録の義務付けで、マーケット参入規制が厳格化することで、スムーズな業界編成とマーケットルールの確立が整うと考えます。それとともに、インターバンク市場の「フォレックスクラブ」のような為替市場委員会に類似した組織の設立と、行動規範を定める統一化された取引ルールの作成と実行が大切になると考えます。
FXマージン取引のマーケット規模は、インターバンク市場と比較しても潜在的に相当なものになると思われます。また、プライジングのメカニズムのマーケット形成により、取引会社が自身に都合のよい勝手なレートを顧客に提示する行為は減少することで、マーケットの透明性は高まることが期待されます。
さらに、投資家のFXマージン取引知識が深まることで、金融資産の新たな運用先として取引参加者はますます増えていくと思われ、FXマージン取引マーケットはきわめて重要な経済的役割を果たしていくと考えます。
/// FIN


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