ネッティングによる決済?


≪為替の謎3 & 4≫では、為替取引をする際の電話による「会話のリスク」とインターネットによる「システム取引のリスク」の謎解きをしました。今回は「資金決済のリスク」を題材に『ネッティング(Netting)』の謎に迫ります。

銀行が日常業務とする資金の決済は、銀行間による様々な取引とリンクしています。為替取引が伴う決済では、世界中の銀行が決済システムを利用して相互に資金を融通しています。例えば、邦銀A銀行が米銀C銀行から受け取ったドルをそのまま欧州B銀行へ支払ったりするものです。万が一、C銀行が破綻に陥った場合にはA銀行からB銀行に支払われるはずの資金決済が滞るデフォルトの連鎖が金融界に起こりかねません。そこで、銀行はあらかじめ相手方銀行に対するクレジットラインの設定と共に、決済不能を回避する手段として、金融機関は外貨建て債権と債務をネッティング(差金決済)することにより、決済リスクと為替リスクの軽減が図られるのです。

一般企業では、1998年の外為法の改正まで、グロス決済といわれる債権と債務を二回する決済が行われ、常にコストの負担と決済リスクが存在していました。しかし、今では外国為替取引の完全自由化と共に、外貨建て取引の輸出資金と輸入資金を相殺するネッティングにより、取引に伴う為替リスクと決済資金の削減効果が得られるようになりました。

そして外国為替証拠金取引は、まさにネッティングの恩恵を受けて為替取引をするものです。個人投資家は、外貨による資産運用で、資金のデリバリーにおけるリスクとコスト軽減が図れ、取引会社にとっても巨額の資金を融通する日々のトランザクション・リスクの軽減を可能にしました。現在、中堅の取引会社でも日々何千万ドルもの為替取引が行われています。すべての取引をグロス決済するとなると、ひとつでも決済の不履行になった場合には、その影響は計り知れません。しかし、為替取引がネッティングで決済できるようになったことで、個人投資家はネット分(差額分)を証拠金として取引会社に預け入れることで、外貨による資産運用(為替差益やスワップ金利の獲得、ポートフォリオの組み換えによる分散投資)が可能になったわけです。

ただし、ネッティング取引といっても、実際に顧客は取引会社との為替取引では、取引会社はヘッジ先金融機関と取引額相当の外貨を調達しており、顧客は現物で資金の受け渡しを望む場合には、当該金額を自前で調達しデリバリーをすることで、当該金額相当の外貨を手にすることができます。そのためには、あらかじめ決められた時間までにその旨を取引会社に告げ、期日までにデリバリーを済ませることが必要になります。受け渡しには、Value Dateや金融機関による海外送金に掛かる日数も考慮に入れておかなければいけません。

スポット取引とフォワード取引を組み合わせによって外国為替証拠金取引という金融商品が生まれました。フォワード取引がどのような経済的効果をもたらすか、≪為替の謎 – 8≫では輸出による為替予約の実務例題で「フォワード取引」の謎を解きます!


フォワード取引の意義


≪為替の謎-7≫で解説したネッティングは、個人投資家も容易に為替取引に参加できるようになった決済手法です。外国為替証拠金取引は、さらにスポット取 引とフォワード取引組み合わさったことで、保有する外貨ポジションのロールオーバーを可能にしました。そこで、今回はフォワード取引と経済活動の関係を解 き明かします。

【フォワード取引の経済的効果】
(平成17年1月21日午後5時40分時点の取引レートで解説)

A自動車会社は、輸出による貿易の資金決済で、3ヵ月後に5億ドルが手に入る予定があり、その時にドル円の為替レートが今の取引レートより「ドル安円高」になってしまっていた場合、手にする円は今に比べて目減りの可能性があります。

A自動車は、決済時における大幅な為替リスクを回避するため、3ヶ月先の為替予約をY銀行と契約します。そこでY銀行資金為替部は、まずスポット取引で 「ドル売り円買い」を行い、フォワード取引で「3ヶ月」のBuy/Sell(Value Dateで「ドル買い円売り」、3ヶ月先で「ドル売り円買い」)を行います。

具体的には、Y銀行は、A自動車の為替予約を受けた時点のスポット取引レート103.65で5億ドルの「ドル売り円買い」を行い、フォワード取引の「3ヶ 月」物取引レート69-68の69で5億ドルのBuy/Sell取引(Value Dateで103.65の「ドル買い円売り」、3ヵ月後の4月25日に102.96(=103.65-0.69)で「ドル売り円買い」)をZ銀行と行いま す。A自動車の為替予約レートは102.96円になります。

これにより、Y銀行は、Value Dateに必要なデリバリーはスポット取引とフォワード取引で相殺され、4月25日の受渡しでは、A自動車から受け渡される5億ドルをZ銀行へ、Z銀行か ら受け取る円をA自動車に支払うことで、先にY銀行が契約したA自動車との為替予約契約が実行されることになります。

経済活動上「資金の融資」と「資金の調達」の間で金利差があるように(銀行が資金を貸し出す際には、資金の調達金利より高い金利を設定する)、また為替取 引(各国通貨の売買)もそれぞれの国の金融政策による金利(FF金利や公定歩合など)によって通貨間で金利差が生じます。上記の例では、Z銀行がY銀行に 「円より金利の高いドルを貸し出す」にあたり、円とドルの調達金利差が69というフォワード取引レートに反映されるのです。このようにフォワード取引は、 特に貿易に係わる資金決済をする上で、なくてはならない重要な経済的役割を担う取引なのです。


みなさんのお考えは、いかがでしたでしょうか!? 第9回特別講習もお楽しみに!


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